博士によれば、ハエの操作に用いられるイオンチャンネルは、分子における鍵と錠のような役割を果たし、このシステムを通じ、エネルギー伝達をリモコン制御することで、細胞活動を操作するとしている。リモコン操作はレーザー光線によって行われ、通常の状態ではATPはその活動を抑止される。しかし例えば一度フラッシュライトを送られると、それがATPを保持する"カゴ"を開く鍵の役目を果たし、ATPが解放されるのである。そしてATPがチャンネルを活性化させ、光を受容して神経細胞に電気刺激が走り、それぞれ光のパターンに基づいた特定の動作を誘発するという。
また今回の研究に当たって、博士らはそれらのリモコン操作を回避(エスケープ)するための神経回路システム=ジャイアント・ファイバーシステム(GF)の研究も同時に行っている。それは例えば急な光の信号にハエが驚いた場合、GFの機能によって、ハエは自立的に飛んだり、跳ねたりすることが出来るというシステムである。そして研究者らは今後、脳内の一部の特定領域における神経細胞を研究し、それらが特定の動作とどう関わっているかを研究していく予定である。
今回行われたデモンストレーションでは、遺伝子操作されたショウジョウバエたちを試験管の中にいれ、その反応が観測された。実験では、まず150m秒のパルスライトを照射した結果、ハエたちは一斉にハネをこする動作を始めた。次いで250m秒のパルスライトが送られると、今度はハエたちは一斉にジャンプをはじめる様子が記録された。
頭のないハエにも成功
また今回の研究においては、頭部を切り取られたハエにおいても実験が行われ、同様の反応を得ることに成功したという。博士はそうした結果から、「これは人工的な神経信号が、生物が元々持つ神経信号の代用となり得る究極のデモンストレーション」であると話している。
しかしまた博士によれば、この実験はまだ初歩段階であり、現段階では完全にハエの動作を制御することは不可能であると話している。
またそうした結果に対し、ロナルド・L・デイヴィス博士は論文に次のようなコメントを付記している。"これはリモートコントロールシステムに制御されない何らかのシステムが働いているものと考えられる。イオンチャンネルの周辺に様々なATPが集合していること、また全てのATPが完全に"カゴ"に納められていないことなどから、何らかの障害が発生していると推測される。"
しかしまたデイヴィス博士は将来的にはこうした障害は克服可能であるとしながら、今後しばらくの研究においては、そうした障害は妥協されるべきものであると記している。
"このリモコンシステム技術にとって、そうした障害はまだ取るにたらない問題である。この技術は今後、脳の神経回路が特定の動作を引き起こすことの大きな研究材料となりえる。またこれら神経の遠隔刺激というテーマは、現在行われている他の様々な分子神経生物学の研究に大きく貢献するものとなるはずである。"