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【Scotsman+etc】「ここにどなたか居られますでしょうか?もし居られましたら貴方の名を教えてください…」静まり返った部屋の中、彼女は呟くように"誰か"に語りかける。そして彼女はゆっくりとテープレコーダーの録音スイッチを入れた。「…私が話しかけているのは、あなたの隣にいる誰か、あるいは向こう側の存在です。」そう語るリンダ・ウィリアムソン(47)は一般にEVPとして知られる「電子音声現象(Electric Voice Phenomena )」の収集家である。この電子音声現象(以下EVP)とは本来あるはずのない声や音がテープに録音されていたり、時にはテレビ放送や電話などからそうした音声が聞こえるという謎の現象である。このEVPを巡っては、死者からのメッセージであるとする説もあれば、単にそれらは電子機器が出す雑音や、何らかの原因による自然発生的雑音であるとする説もあるが、原因は未だ定かではない。現在では膨大なEVPコレクションをかかえる彼女がこの現象に初めて遭遇したのは1998年のことである。
その日の早朝、彼女は仕事で同僚らと一緒に倉庫を掃除をしていた。そして掃除を始めて間もなくのことである。突然、倉庫に置かれていた荷物が勝手に動きだし、入り口のドアが激しい開閉を始めたのだ。リンダは驚きながらも、いつも仕事の時にかけているテープレコーダーを見つけ、その状況を記録しようとすぐに録音を始めたという。
彼女はその時に録音したテープを実際に聞かせてくれた。そこには確かに家具か何かが激しく移動してぶつかり合う音と共に、奇怪な女性の笑い声が録音されていた。
彼女の話によれば、事件が起こったのは朝5時、その時倉庫には彼女と同僚の女性以外どこにも人はいなかったという。
「初めてテープを再生したときは、本当にびっくりしました。でもそれからすぐ、この現象に何故か惹きつけられるようになったんです。その時はまだ、こうした現象にEVPという名前があることは知りませんでした。それからしばらくして、テレビであるドキュメンタリ番組を見たときに、米国電子音声現象協会(AA-EVP)という団体があることを知ったんです。それで連絡を取ったところ、彼らは私にこう言ったんです。"心配する必要はない。こうした現象は世界中で起こっていることです"」それ以来、彼女はこの現象に強い興味を抱き、EVPの収集を始めることになったのである。
死者からのメッセージ
そして最初は半信半疑だった彼女も、EVPを収集していくうち、やがてこうした声が死者から発せられたメッセージであると確信するに至ったという。「この中には既に亡くなった私の家族のものも含まれています。」彼女はそう語り、続けていくつかのテープを聞かせてくれた。その中に含まれていた音声は、非常に聞き取りづらい女性のつぶやくような声、また男性が途切れ途切れに歌うような声だった。
彼女によれば、それは既に亡き彼女の母親、そして父親からのものであるという。記者が聞き取った限り、ひとつは女性が小さな声で「Help!(助けて!)」と叫ぶような声、そしてもう一つは「I'm impressed(感動した)」といったように聞くことは出来たが、実際のところ、何と言っているかを正確に聞き分けることは出来なかった。
そして次に、彼女は古びた廃教会で録音したというテープを再生してくれた。彼女の言うところでは、収められた音声は"あたかも遠くで僧侶達が歌っているような声"、というものだったが、いずれにせよ、そのテープに録音されていたEVPは非常に分かりづらく、騒音の中で発された瞬間的な叫び声のようなものだった。彼女の話ではそうしたEVPの中にはテープを逆再生することでその意味が明らかになるものもあるという。
こうした彼女の話は、確かににわかには信じがたいものではある。それは確かに、声として聞き取ることは可能ではあるが、単なる電子ノイズとして聞き流すこともまた可能なのである。しかしあるいは、彼女が言う通り、それは本当に死者から送られたメッセージなのだろうか。
ロールシャッハ音
ある科学者によれば、こうしたEVPはしばしば「ロールシャッハ音」とも呼ばれ、それは個々人ごとの解釈や内在的なイメージと結び付ける事で説明可能になるという。英ゴールドスミス・カレッジで超心理学を研究するクリス・フレンチ博士はEVPをこう説明している。
画像「近年の心理学研究によれば、こうした現象は決して超常現象ではありません。ある情報を受け取ったとき、人はそれぞれ二つの異なる方法で情報を処理しています。それはまず、ボトムアップ処理(データ駆動処理)と呼ばれるものです。これはすなわち刺激から得た生の情報をそのまま受容して処理する方法です。そしてもう一つはトップダウン処理(概念駆動処理)と呼ばれるもので、刺激から得た情報だけでなく、もともとある記憶や知識、期待などをもとに情報を処理する方法です。そしてもしあなたが得た情報が曖昧であったり、強度の弱いものであった場合、このトップダウン処理が大きく作用するわけです。特にこうしたEVPのような曖昧な刺激の場合、あなたの個人的な信念や期待が情報を処理する上で大きな役割を果たすわけです。」(写真はロールシャッハテストで用いられる典型的な図形。被験者の解釈の違いからパーソナリティ構造を捉えることが出来ると言われている)
更に博士はこうしたEVPを聞くうえで、何ら前情報がない場合は決して人はそれらを聞き分けることが出来ない、と説明する。「何も前情報が無くこうした音声を聞いた場合、人はそこに何かを聞き取ることは出来ないでしょう。しかし、一旦、例えばこのテープには声が入っているといった前情報を聞いてからその音声を聞いた場合、人は非常に鮮明にその"声"を聞き分けるんです。」
エジンバラ大学ケストラー超心理学部研究所のキャロライン・ワット博士もEVPに対し、ほぼ同様の見解を見せている。「いくつかこうしたEVPを聞きましたが、本質的にこれらはランダムなノイズや雑音です。中には確かに言葉のようなものもありますが、私の見解では、それらは単にランダムなノイズの一部を人が言葉として強引に解釈しているだけではないかと思います。我々の周りには様々なテレビやラジオ、ケーブルから発せられる電子ノイズや、地球から発せられる電磁気がひしめいています。それらが機械によって拾われたとき、こうした現象が起こるのではないかと推測しています。」
画像この博士の指摘を裏付けるように、確かにこうした現象は現代よりも以前に数多く報告されている。例えば有名な一例として、1959年、オペラ歌手のフリードリヒ・ジュルジャンソンがストックホルムでレコーディングを行ったところ、その中には録音時には鳴っていなかったはずの音声が録音されていた。後にジュルジャンソン自身はこの声は死亡した母親からのメッセージであると話したという。そして1971年、ジュルジャンソンが懇意にしていたラトビアの心理学者コンスタンチン・ローディブ氏(写真)はEVPについて研究し、自著の中で上記の事例を紹介している(写真一番上は霊界通信の結果、亡きジュルジャンソン氏がテレビ画面に現れたと言われるもの。実験については下記【参考4】参照)。
またそれ以前、かの有名な発明王エジソンも「もしも将来、例えばある道具が我々個々人のパーソナリティにさえ影響を受けるよう、進化させることが出来れば、それはきっと(我々の予期しない)"何か"を録音することが出来るようになるだろう。」と語っている。(※エジソンはその晩年、霊界通信機の開発に取り組んでいたという逸話も残されている。更に氏のライバルであったニコラ・テスラも同様の研究に取り組んでいたといわれる。)
一方、米国電子音声現象協会の責任者にして電気技術師であるトム・バトラー氏は、これら世界で報告されるEVPが、単なる電磁気の引き起こすランダムノイズであるとする説には強く反対している。「この現象が現在の物理学で完全に説明可能なものだとは決して思えませんね。」また彼の妻にして心理学者のリサも同様の見解を述べている。「この現象を説明する仮説はただひとつ、死亡した人間のパーソナリティだけが死後も残存し、その声が録音されているということです。」
テクノロジーと幽霊 - Ghost in the Machine -
このように現在、EVPの真相を巡っては様々な見解が存在し、未だその実態は明らかではない。しかしそうした議論をよそに、つい最近にもBBCが放送したラジオプログラムではEVPが録音、放送され、視聴者達から多数の報告がなされたという。同番組はプレゼンターがアイルランドの最も有名な心霊スポットと言われるリープ・キャッスルを訪れ、そこから生放送を行ったものである。そして放送後、視聴者から多数の報告が寄せられ、EVPが発生していたことが明らかになったのである。
同番組のプレゼンターサンディ・トクスヴィグ氏は録音時にはそうした声は全く聞こえず、放送後に初めて確認した、と話している。視聴者らの報告によれば、その声はかぼそく不吉な響きで、「lie down(横になれ)」、あるいは「You liar(お前は嘘つきだ)」といったものや、さらに別の視聴者からは「hide out(失せろ)」、あるいは「wipe out(消えろ)」といったような音声が確認されたという。
画像BBCのベテランエンジニア、イアン・アシュベリー氏は同番組での出来事について、「私は常に合理的な判断をする方ですが、今回の放送に発生したEVPに関する限り、これはマイクが不意に、何らかの電波を受信したものではないかと思います」とコメントしている。またスコットランド演劇大学の作曲学部長ゴードン・マクファーソン氏は現在EVPを取り入れたマルチメディア作品を製作しており、この件については冗談めかしながら次のように語っている。「おそらくその番組にはそういうものが期待されていた。そしてその通りに現れたということでしょう。私自身はこのEVPに対してかなり懐疑的です。私が興味があるのは、この現象が何であるかではなく、この現象が持つ、ある種の抽象性です。そして更には、人がこの現象を信じるその仕組みにあります。」
また現在米国での公開を控えるEVPを主題とした作品、「White Noise」の脚本を手がけたニール・ジョンソン氏は次のように語っている。「これはテクノロジーとスピリチュアルなものが織り成す複雑な相互関係です。私が特に興味があるのは、全くごく平凡な人間が、ある日、愛する人を失うことで、それを突然信じるようになるということです。」
リンダはこのEVPをして、かつての愛する人からのメッセージであると語ったが、それが本当に死者が送ったメッセージであるのか、あるいは単なる電子のイタズラに過ぎないのか、真相は定かではない。しかしもしあなたが、ある日、愛する人を失い、ラジオやテープに録音されたノイズを耳にしたとき、それはあなたの耳にどう響くのだろうか。それは単なる電子雑音に過ぎないのか、あるいは ― 。